バイトの兄ちゃん

バイトの兄ちゃん。おれがこのアパートに越してきた当初からいるからもう五年くらいになってると思ってた。
近所のコンビニの店員なのだが、いつも腕時計の日焼けを見せつけられ、「いい気になって遊んでんじゃねえよ。どうせテニサーのキャピキャピしたギャルっぽい小麦色の肌の子と遊んでるんだろうな」と思ってた。
ところが、何年経っても、一向にいなくならない。「何年だ?さすがにやばくねえ?顔に似合わず(結構シュッとした顔立ちなのだ)なんか抱えてんのか?思春期の悩みか?遅くねえ?」とか思ってた。「くくく、苦しめ。若者よ。お前の悩みはわが幸福の兆し。くくく」と思わなかったと言ったら嘘になる。
ところがである。女子高生に話しかけたことでリミッターが解除されたのか、「長いっすよね?ここ」と話しかけてしまう。すると、「ハハッ、あ、そうなんすよ。今年で卒業で」と返ってくる。「あ、四年生?」と聞くと、「ええ。東京に就職で」あ、そうなんだ。やっぱシュッとした奴は違うな。弁当を温めている間の沈黙が長い。「常連さんっすよね、ハハハ……(何年いるんだよ)ハハハ……(おれなんて小麦色の……)」ああ、話しかけなきゃ良かった……、ってのは嘘で、「常連さんっすよね(いつもお見掛けしてます)」風の感じのいい挨拶だった。最後に謎が解けてすっきりした。東京で頑張れよ、と一応言っといた。頑張れ。