コーヒーについて

こんなことを言うと、いかにもうるさい奴だと思われるのかもしれないが、コーヒーを客に出すという行動一つとってもなかなか奥深いものである。
とある友人宅。おれは招待され、緊張していた。多分友人も緊張していたと思うが、コーヒーをおれに出してくれた。ところがである。コーヒーっていうのは、通に言わせれば、その銘柄を当てるのが何よりの楽しみなのだ。
「ご主人、これは**亭のキリマンジャロブレンドですね?」とか、「そういえば東京にも興味深いコーヒー屋がこの間出来ましてね……」とか。ところが、その友人は何気なく多分たまたま家にあった「ネスカフェゴールドブレンド」みたいな、まあ、ごく普通のアイスコーヒーを取り出した。
おれは普通のアイスコーヒーもよく飲む。したがって、「ご主人。これ、普通のアイスコーヒーでしょ?」って当てて、ビビらせるということもできなくはない。だから、何なら、キッチンでアイスコーヒーをカップに入れて、いかにも、「いいコーヒーなんですよ」みたいな風情でやってきたご主人に冷や水をぶっかける可能性だってなくはなかったのだ。ところが、そのご主人は、そんなおれの技能にも全く目もくれず、目の前で、「じゃばじゃば」とネスカフェゴールドブレンドを注ぎ、キッチンへと消え去った。全く、もう。