乾いた清潔な布巾の危機

 僕のよく行くカフェには「乾いた清潔な布巾」と僕が呼んでいる女性がいるのだ。

 その女性の何がそんなに布巾みたいなのか、というと、すごく清潔で、どんな汚れもたちまち綺麗にしてしまいそうな、そんな清潔感にあふれた女性なのである。

 その「乾いた清潔な布巾」みたいな女性に今日正月初めに最初の危機が訪れようとしていた。

 その男は、夕方のカフェに音もなく、ひっそりと侵入してきた。恐ろしく物静かなその男は、いわゆる、汗っかき、コミケなどで「汗拭きタオル」を欠かすことのできない、そんな男だった。

 僕は店内に(僕の思い込みか)緊張が走るのを感じた。この男と、「布巾」女子が鉢合わせたらどうなるんだろう?

 布巾女子はのほほんとしたいつもの微笑みを浮かべながら、コミケ男子の方へ、打ち上げ花火のような真っ黒なコーヒーを運んで行った。

 布巾vs汗っかきの熾烈な戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた。布巾女子がコミケ男子のもとへコーヒーを運んで行った瞬間の目配せにはこんな意味が含まれていたに違いない。

「あんたの汗なんて、このアタシの布巾の水分吸収力の前にはイチコロよ!!」

「なんだと? おれの汗っかきを嘗めるなよ? おれの汗は夏場最高気温のコミケ会場ではナイヤガラ瀑布のごとき奔流となって……」

 布巾vs汗っかきの熾烈な戦いを目にした僕は緊張のあまり、店内を見回した。その戦いに注意を払うものは、一人もいなかった……。

 というわけで、正月早々、僕の喫茶店観察記は幕を切って落とされたのである。乞うご期待……かな……。