モカフロスティを頼む

 昼下がりの炎天下、馴染みの喫茶店で冷たい飲み物を注文する。
 夏らしい気候に影響されて飲み物も夏仕様のものを注文してみようと思いながらメニューを眺めていると、モカフロスティという冷たそうなドリンクにきらりと光る何かを感じた。
 炎暑で火照った身体を急速にクールダウンさせてくれそうな冷たさが感じ取れる「フロスティ」というネーミングが可愛らしいな、とまずネーミングに惹かれる。
 その実、写真ではごく当たり前の見た目をしたロングサイズのドリンクに見える。たっぷりと量もあるし、頼もしい奴。
 モカフロスティだ!! おれは決めた。
 しかし、この量を飲み干したらちょっと寒くなりすぎはしないか、と心配しつつも、フロスティを注文することをウェイトレスさんに伝える。
 モカフロスティですね?
 ウェイトレスさんはきびきびとした様子で、注文を取って、当たり前の様子でかえっていく。
 僕はモカフロスティへの期待を裏切られたようで、ちょっとがっかりする。
 なんというか、そこそここの季節を代表する注文を取っているという感覚がまるでないのだ。もっとフロスティが注文されたことに対する畏敬の念を持って欲しい。
 無感動にモカフロスティが届けられる。
 モカフロスティは初めて人間がヤシの木を見上げたのと同格の感動を見るものに与える。とにかく長いのだ。
 その長さに圧倒されつつ、アイスクリームを少しスプーンですくって、口に運んでみると、濃厚なバニラの香りが冷たさと一緒に口の中に広がり、ようやく一息つけたような気分になる。
 僕はいそいそと文庫本を取り出し、眺め始める。モカフロスティをお供にして、二時間ばかりその喫茶店で過ごした。上着がなかったらきつかったかもしれない。