大垣書店の店主について

 大垣書店を切り盛りするのは年の頃35~40歳までのどれかと思われる大柄な男だ。といって、いわゆる偉丈夫、という体型ではなく、どちらかというと、ガリッとした骸骨のような、骨の感触が見た目から感じ取れるような痩せ型の男である。顔色は青白く、頬には無精ひげがうっすらと刈り残した芝のように生えている。そして、青白い男にお似合いの黒縁の真面目そうな眼鏡。この男は初めて見た時からただならぬ雰囲気を発していたし、それは後々になって証明されることとなった。
 この男、何がただならぬかと言うと、ただ、店内に不審者がいないか、いつも目を光らせているようなところがある。慇懃な視線で客の姿を厳しく精査する。おれは一日に何度もこの書店へ足を運び、さらには店内を散歩コースのように用いているため、この男の慇懃な視線にはいつも身のすくむ思いがするのである。いつ浮浪者のような扱いを受けるのか、恐怖におちおち書店観察も出来ない。この男と目が合った日にはすぐに店を出るようにしている。
 さて、この男の名物的な振る舞い、それは何と言っても、店主という立場(あるいは、今風に、「フロアマネージャー」とでも称しておこうか)に似つかわしくない、ある振る舞いのことなのだが……。それはなんと言っても、大柄なこの男に似つかわしくない、やや小さめのパソコンデスクに、大股を広げて、カタカタとパソコンの打ち込み作業に励むその姿なのだ。想像してみてもくれ。慇懃な男が、その長い脚を、まるでカメラの三脚のようにおっぴろげ、なんとかパソコンデスクに自分の頭の高さを合わせようとしている姿を。大垣書店はなぜ椅子を買えないのか。
 それとも店内であるがゆえ、椅子に座ることが出来ないのか。とにかく、この男のこの姿が、慇懃な普段の姿勢に似つかわしくないことは言うまでもない。この男については他にも報告するべきことがある。追って報告する。以上。