おっさんとトイレ待ちに思ったこととその顛末について
僕は駅前通りのカラオケボックスに年配の男性と到着し、カラオケを楽しんだのだが、歌い終わった後、唐突にその方がトイレに行きたいと言い出した。
その方がトイレに行っている間に僕は所在なさから窓を覗き込んでいた。
意外なことに、なかなか良いロケーションなのである。そのカラオケはビルの高層階にあり、ちょっとした夜景気分を味わえる。おそらくは、付き合い始めのカップルで眺めたりするにはちょうどいいだろう。
おっさんのトイレ待ちに眺めるにはもったいない夜景である。そう思った瞬間、おっさんが僕の心を読んだかのごとく、トイレから戻ってくるではないか。
「ごめんごめん、じゃあ、行こっか!!」
なんとなく、カップルのことについて思いを馳せていた僕にとっては、イラっとさせられる態度である。全く悪びれていない、というか、「おれのトイレ待ちに素敵な夜景でも眺めてなよ、YOU!!」ってなもんで、陽気すぎる。おれはこのおっさんの能天気ぶりを心底憎んだ。
で、帰り際、おっさんを困らせてやろうと、「○○さん、ご飯でもいかがですか?」と誘いをかけてみる。ここはご飯でもおごらせないと、やってられない。おっさんのトイレ待ちに、素敵な夜景で余計なことを考えさせられた罰だ。
そう思った途端、このおっさんは、「ごめん、今金なくってさあ……」といきなりしおらしい態度に豹変する。こういうところがまた、このおっさんの腹立たしいところだ。
この―、っと怒りを募らせていると、「じゃ!!」と言って退散していくおっさん。おい!! 今日はありがとう、とかそういう挨拶はないのか!!と思うも、おっさんはあっという間に駅の群衆の中に消えていったのであった……。